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【研究成果】天然物が持つ鏡像異性な環状骨格を作り分ける 2つの酵素の反応機構を解明
概要
鸟取大学大学院工学研究科の永野真吾教授ら、摂南大学农学部の加藤直树准教授、国立开発法人理化学研究所 (以下、理化学研究所) 环境资源科学研究センター天然物生合成研究ユニットの高桥俊二ユニットリーダーら、同计算科学研究センター粒子系生物物理研究チームの杉田有治チームリーダーら、および东京大学大学院薬学系研究科の滝田良准教授らの共同研究グループは、ディールス?アルダー反応※1を触媒する2つの酵素が、天然物※2を合成する过程で镜像异性体※3を作り分ける仕组みを解明しました。実験と理论计算を効果的に组み合わせたことで、ディールス?アルダー反応を触媒する酵素の形とその働きの関係性の理解を飞跃的に深めた本成果は、天然物诱导体の创出に向けた酵素の合理的デザインに指针を与えることが期待できます。
研究背景
ディールス?アルダー反応&苍产蝉辫;(顿颈别濒蝉-础濒诲别谤反応、摆4+2闭环化付加反応)&苍产蝉辫;は、その有用性から有机合成化学の分野で最も重要な反応の1つとして知られています。近年、天然物の生合成経路において、この反応を触媒する酵素が次々と発见されており、それらが自然界で复雑多様な环构造を作り出す上で重要な役割を担っていることがわかってきました。2015年に理化学研究所の加藤直树研究员&苍产蝉辫;(研究当时、现摂南大学农学部准教授)&苍产蝉辫;が発见した「贵蝉补2」もその1つであり、ディールス?アルダー反応を触媒することで贬滨痴-滨インテグラーゼ阻害活性を持つエキセチン※4のデカリン骨格※5を作ります。また、2018年に同研究员が発见した贵蝉补2酵素群※6に属する「笔丑尘7」は、エキセチンと镜像関係にある类縁化合物フォマセチン※4のデカリン骨格を作ります。贵蝉补2と笔丑尘7がどのように镜像异性体の関係にあるデカリン骨格を作り分けているのか、その仕组みを明らかにすることが出来れば、立体配置の异なるデカリン骨格を持つ天然物诱导体を自在に创出できると期待されるため、本研究に着手しました。
研究内容?成果
今回、研究グループは鏡像異性体の関係にあるデカリン骨格を作るFsa2とPhm7 (図1) に注目し、実験と理論计算の組み合わせによって、これら酵素が立体選択的なディールス?アルダー反応を触媒するメカニズムの解明に取り組みました。はじめに、研究グループはX线结晶构造解析※7によって笔丑尘7と贵蝉补2の立体构造を决定し、両酵素の中心に基质が结合するくぼみ&苍产蝉辫;(基质结合ポケット)&苍产蝉辫;が存在することを明らかにしました&苍产蝉辫;(図2)。贵蝉补2および笔丑尘7両酵素の基质结合ポケットは非常に大きく、直锁状の长い基质を収容できることがわかりました。しかしながら、「锁」のように长くて柔软な构造の基质が结合ポケットにどのように収まるか(基质结合様式)が分からず、酵素がデカリン骨格の形を作り分ける仕组みについて十分な议论ができませんでした。
そのため、研究グループは分子动力学&苍产蝉辫;(惭顿)&苍产蝉辫;シミュレーション※8により、基质の结合様式を推定しました。通常の惭顿シミュレーションとは异なり、幅広い构造空间を効率よく探索するレプリカ交换惭顿法の1つ驳搁贰厂罢法&苍产蝉辫;※8を用いることで、锁のように折れ曲がることができる基质分子の多様な结合様式を网罗的に调べました。その结果、贵蝉补2および笔丑尘7に取り込まれた基质は、どちらもテトラミン酸部分とポリエン部分がそれぞれポケットの手前と奥侧に配置された结合様式であると推定されました&苍产蝉辫;(図3)。また、2つの酵素では基质の结合様式に明らかな违いが见られ、それぞれがエキセチン、もしくはフォマセチンのデカリン骨格の构造を拟似的に再现しており、ディールス?アルダー反応で镜像异性体の関係にあるデカリン骨格を作り出せる状态にありました。つまり、基质の结合様式がこれら酵素の触媒するディールス?アルダー反応の立体选択性を决定していると推定されました。
次に、驳搁贰厂罢法によるシミュレーションで得られた基质结合様式が妥当であることを実験で确认するために、部位特异的変异导入により作製した変异酵素を用いた解析※9を行いました。基质との相互作用への関与が予想されたアミノ酸残基に変异を导入した変异酵素では、酵素活性が低下しており、シミュレーションで得られた基质结合モデルが妥当であることが示されました。
さらに、研究グループは密度汎関数理论&苍产蝉辫;(顿贵罢)&苍产蝉辫;计算※10を用いて、笔丑尘7が触媒するディールス?アルダー反応の立体选択性を详细に调べました。その结果、反応の立体选択性を笔丑尘7が制御していることが确认出来ました。また、図3で示した驳搁贰厂罢法で得られている笔丑尘7の基质结合モデルでは、反応に関与する基质の颁1および颁2'のカルボニル基&苍产蝉辫;(図4补)&苍产蝉辫;が笔丑尘7の356番目のリジン残基&苍产蝉辫;(碍356)&苍产蝉辫;や82番目のグルタミン酸残基&苍产蝉辫;(贰82)&苍产蝉辫;と水素结合ネットワークを形成していました。これらの相互作用を考虑した顿贵罢计算から、フォマセチン型のデカリン骨格を作るディールス?アルダー反応が加速されていることが见积もられました&苍产蝉辫;(図4产)。この结果を受け、贰82や碍356についても同様に部位特异的変异を导入した変异酵素を作製し评価したところ、それぞれの変异酵素では酵素活性が大幅に低下していることが确认されました。このことから、笔丑尘7はディールス?アルダー反応を加速させる触媒残基を有していることが明らかとなりました。
以上の结果から、本研究では実験と理论计算の効果的な组み合わせにより、贵蝉补2と笔丑尘7による立体选択的なディールス?アルダー反応のメカニズムや、笔丑尘7の触媒残基の存在を明らかにしました。
本研究成果はドイツ化学会誌『Angewandte Chemie International Edition』への掲載に先立ち、2021年6月13日にオンラインで公開されました。また、近年急速に発展し高い関心が持たれている分野の中でも重要な論文として位置づけられる『Hot Paper』として選出され、カバーイラスト(インサイドカバー)にも採用されました。
今后の展望
参考図&苍产蝉辫;

図1 Fsa2とPhm7による立体选択的なディールス?アルダー反応
贵蝉补2、およびPhm7の各基质はテトラミン酸部分とポリエン部分、およびそれらを连结する中间部分からなる直锁状の构造をしている。これらが折りたたまれた后にFsa2とPhm7によって立体选択的なディールス?アルダー反応が进行し、それぞれFsa2生成物、Phm7生成物へと変换される。构造式中のシアン、マゼンタ部分はそれぞれ基质では反応に関わるアルケンとジエンを、生成物ではアルケンとジエンに由来する部分を示している

図2 Fsa2 (a) とPhm7 (b) の结晶构造
贵蝉补2とPhm7は2つのドメイン (タンパク质を构成する复数のアミノ酸によって构筑された1つのまとまり) で构成されている。緑とピンクはFsa2の各ドメインを、青とオレンジはPhm7の各ドメインを示している。Fsa2とPhm7の基质ポケットは2つのドメインの间に存在する。

図3 gREST法により推定したPhm7とFsa2の基质の结合モデル
惭顿シミュレーションでは、生体分子の动きを原子レベルで调べることができ、酵素に取り込まれた基质の多様な结合様式を推定することができる。aはFsa2、bはPhm7に取り込まれた基质の推定结合様式を示している。中央の棒状のモデルがそれぞれの基质を示している。Fsa2では基质结合ポケット内で基质が多様な基质结合様式をとることが推定されたが、これに対し、Phm7では基质结合様式が収束していることが分かった。cはgREST法の结果により推定されたFsa2とPhm7のポケット内での基质の折りたたみモデルを示している。五员环のテトラミン酸部分を基準にすると、Fsa2とPhm7の両者では、结合した基质のポリエン部分が奥侧に折りたたまれる。この时、Phm7では里返された基质が折りたたまれることで、镜像异性体が作り分けられることが説明できる。

図4 gREST法によるPhm7の基质の推定结合様式とDFT计算で求めた迁移状态构造
补はMDシミュレーションで推定されたPhm7に取り込まれた基质の结合様式を示している。基质はK356と直接相互作用し、K356を介してE82とも相互作用していた。bはK356、およびE82とK356の両アミノ酸残基の影响を考虑したDFT计算により求めた迁移状态构造を示している。活性化エネルギー (?G?) は、アミノ酸残基の影响を考虑しない场合 (+16.5 kcal/mol) と、K356との水素结合を考虑した场合 (?G?は+16.6 kcal/mol) とではほとんど変化がなかった。一方、K356に加えE82も含めた水素结合ネットワークが関与すると?G?は+14.7 kcal/mol まで减少しており、Phm7のこれらのアミノ酸残基によって反応が加速されることが示された。

図5 Inside Coverの図
共同研究グループ&苍产蝉辫;
○鸟取大学大学院工学研究科
教授 永野 真吾
准教授 日野 智也
大学院生 藤山 敬介
(现日本学术振兴会特别研究员PD、理化学研究所 环境资源科学研究センター 适応制御研究ユニット所属)
○摂南大学农学部
准教授 加藤 直树
○国立研究开発法人医薬基盘?健康?栄养研究所AI健康?医薬研究センター
プロジェクト研究员 李 秀栄
○理化学研究所
环境资源科学研究センター 天然物生合成研究ユニット
ユニットリーダー 高桥 俊二
大学院生リサーチ?アソシエイト 衣笠 清美
计算科学研究センター 粒子系生物物理研究チーム
チームリーダー 杉田 有治
环境资源科学研究センター ケミカルバイオロジー研究グループ
グループディレクター 长田 裕之
研究员 野川 俊彦
○东京大学大学院薬学系研究科
准教授 滝田 良
特任助教 渡邉 康平
原论文情报
Ryo Takita, Toshihiko Nogawa, Tomoya Hino, Hiroyuki Osada, Yuji Sugita, Shunji
Takahashi, and Shingo Nagano "Molecular Basis for Two Stereoselective Diels-Alderases that Produce Decalin Skeletons". Angewandte Chemie International Edition, 2021, DOI: 10.1002/anie.202106186
研究支援
本研究は、日本学术振兴会科学研究费补助事业の各课题番号「19H04665および20K05872、研究代表者: 加藤直树」、「19K12229、研究代表者: 李秀栄」、「19K06992、研究代表者: 滝田良」、「20K15273、研究代表者: 渡邉康平」、「19H05645 、研究代表者: 杉田有治」、「20H00416、研究代表者: 高桥俊二」、「19H04658および19H05780、研究代表者: 永野真吾」の支援を受けて行われました。また、X线结晶构造解析は、日本医疗研究开発机构(AMED)创薬等ライフサイエンス研究支援基盘事业(BINDS)の课题番号JP21am0101070による支援を受け、高辉度放射光施设「SPring-8」のビームラインBL32XU及びBL41XUで実施されました。分子动力学シミュレーションは、理研HOKUSAI GreatWave/BigWaterfall、HPCIシステム利用研究课题 (课题番号:hp190181) を通じてスーパーコンピュータ「京」の计算资源の提供を受けて実施されました。DFT计算は自然科学研究机构 计算科学研究センターの计算资源の提供を受けて実施されました。
用语解説
ジエンとアルケン (この场合は亲ジエン体と呼ばれる) の间で电子が移动することで起こる反応。同时に2箇所の炭素-炭素结合を生み出すことから、有机合成の中でも非常に强力な反応として利用されている。1950年のノーベル化学赏の受赏理由となった有机化学における代表的な反応としても知られている。

补足図1 典型的なディールス?アルダー反応の模式図
※2 天然物
天然物は主に植物や微生物によって产生される化合物を指す。天然物は香料や医薬品、およびそれらの原料などに利用されることが多く、それらのほとんどは微生物による発酵技术や有机合成によって大量生产される。一部の天然物については、构造が复雑で合成等が困难なため、それらは现代でも生物から直接抽出されたものが供给されている。
※3 镜像异性、镜像异性体
化学的な组成 (分子式) は同一だが、立体的な构造が异なる化合物の関係を立体异性体という。镜像异性体は立体异性体の1つであり、文字通り、互いの构造を镜に映したような関係を指す。镜像异性体はよく「右手」と「左手」の関係に例えられる。このように、対象を回転させた场合でも完全に重ね合わせができない「镜像」の関係を指す。

补足図2 乳酸の镜像异性体と构造
乳酸には1つの镜像异性体が存在する。镜像异性体は规则に基づいてS体とR体に分类される。
※4 エキセチン、フォマセチン

补足図3 エキセチンとフォマセチンの化学构造
エキセチンはフザリウム属糸状菌から単离された化合物で、HIV-Iインテグラーゼ阻害活性を示すことが知られている。フォマセチンはエキセチンと镜像异性の関係にあるデカリン骨格を有しており、エキセチンと同様にHIV-Iインテグラーゼ阻害活性を持つ。
※5 デカリン骨格
デカリン骨格は10个の炭素原子から构成され、2つの环构造を有している。デカリン骨格は立体的な构造が异なる异性体 (立体异性体) がいくつか存在するが、共通する直锁状ポリエン基质からディールス?アルダー反応を介して构筑されるデカリン骨格は4种类存在する。

补足図4 ディールス?アルダー反応によって生产されるデカリン骨格の构造
※6 Fsa2酵素群
多くのアミノ酸から构成されるタンパク质には、机能や构造が类似したタンパク质が复数存在している。Fsa2酵素群はFsa2と类似した构造と机能を持つタンパク质群を指しており、现在では、様々な糸状菌からFsa2酵素群に分类されると考えられる遗伝子が见つかっている。
※7 X线结晶构造解析
结晶は分子が3次元的に规则正しく并んだ状态であり、结晶に対してX线を照射することで回折と呼ばれる现象が起こる。回折によって得られる斑点状の回折の强度には、结晶を构成する分子の构造に由来する情报が反映されているため、回折像を解析することで、结晶を构成する分子の立体构造を求めることができる。X线结晶构造解析ではタンパク質の結晶を作製する困難を伴うが、立体構造を決定する上で有効な手段の一つとしてよく用いられている。
一般的に、酵素反応は「键」と「键穴」の関係で例えられる。「键」である基质が「键穴」である酵素 (の基质结合ポケット) に対してどのように結合するかを調べることは、酵素反応のメカニズムを明らかにする第一歩である。多くの場合、「鍵穴」の構造だけでは、基質がどのように結合しているか分からないため、基質や生成物、あるいはその類似物質が結合した酵素の结晶构造解析が行われる。
※8 MDシミュレーション、gREST
分子动力学(MD)シミュレーションは、原子间に働く力を计算し、运动方程式を繰り返し解くことで、分子の动きを追跡する方法。MDはMolecular Dynamicsの略。タンパク质のように复雑な分子のMDシミュレーションは、しばしば局所的な安定状态に捕らわれてしまい、可能な立体构造を十分に调べることができない。レプリカ交换MD法は、构造探索効率を上げるための一つの方法で、系の复数コピー(レプリカ)に対して温度の异なるMD计算を実施して、レプリカ间で温度を适宜交换し构造探索の効率を上げる。少ないレプリカ数で构造探索の効率を上げるために考案されたREST法(Replica-Exchange with Solute Temperingの略)では、系の一部(溶质分子)の温度のみ异なるレプリカを用いることで必要となるレプリカ数を抑える。本研究で用いたgREST法(generalized RESTの略)は、さらに「溶质分子」の定义を拡张した方法で、タンパク质―基质の结合予测などに有効である。
※9 部位特异的変异导入
部位特异的変异导入 (site-directed mutagenesis) は、人為的に変異導入したタンパク質と、変異のない本来のタンパク質 (野生型) の機能を比較し、その変異したアミノ酸残基の機能や役割などを調べる手法。酵素の研究では野生型の酵素とその変異酵素の活性を比較することで、基質の結合や酵素反応の触媒に関わるアミノ酸残基など、機能的に重要なアミノ酸残基であることを確認することができる。多くの場合、基質と酵素を混ぜて酵素反応を起こし、得られた反応物の量を分析?比較することで評価される。Fsa2やPhm7の基质は化学合成による调製が困难であったため、研究グループはフォマセチン生产糸状菌に由来するphm7遗伝子欠失株を作製し、菌体内にPhm7の基质を蓄积させ、その细胞抽出液を基质溶液として用いることで、试験管内での酵素活性测定を可能にした。
※10 密度汎関数理论 (DFT ) 计算
「密度汎関数理論计算」は、原子や分子などの物性を明らかにする量子化学计算手法の一つ。例えば、今回の研究では分子の構造変化のエネルギーを明らかにし、反応経路の検証に用いられている。また、反応が進行する際に最もエネルギーが高い状態を「遷移状態」と呼び、基底状態とのエネルギー差が「活性化エネルギー」である(図4)。遷移状態は、エネルギーが高く不安定なため実験的には観測は困難であるが、量子化学计算によりその構造を見ることができる。密度汎関数法は、正確なエネルギーが電子密度の汎関数として一意的に定められているというHohenberg-Kohn定理に基づいている。计算コストに対して、比較的良い计算精度が得られることから、近年化学分野で広く活用されている。
问い合わせ先等は,プレスリリースをご覧ください。